3月19日(日)に、「3学会(国際商取引学会・国際ビジネスコミュニケーション学会・日本港湾経済学会)合同の西部部会」 は、盛会のうちに終了致しました。ご多忙の中、多数お集まり賜り誠にありがとうございました。当日のスケジュールおよび報告要旨は、下記の通りでございます。
記
(( 3月19日(日)のスケジュール))
14:00 開会の挨拶
【個別研究報告】
14:05~14:45
【第1報告】「米中貿易紛争の現状と注意点-特に刑事罰に注意して―」
報告者:内田芳樹氏(MDPビジネスアドバイザリー(株)・ニューヨーク州弁護士)
14:50~15:30
【第2報告】「北極海航路についての2022年の回顧と2023年の展望」
報告者:合田浩之氏(東海大学・教授)
15:35~16:15
【第3報告】「司法の国境がなくなる:米国管轄権の拡大と日本企業の対応」
報告者:秋山武夫氏(元Pillsbury Winthrop Shaw Pittman・ニューヨーク州弁護士)
16:20~17:00
【第4報告】「東アジアの家族企業における事業承継とビジネスコミュニケーションの役割」
報告者:洪性奉氏(就実大学・専任講師)
17:05~18:35
【ミニシンポジウム】
「ビジネスの戦争地域からの責任ある撤退について:ミャンマーの事例を中心に」
報告者:齋藤彰氏(神戸大学・名誉教授)・難波泰明氏(One Asia Lawyers・弁護士)・佐野和樹氏(One Asia Lawyers・弁護士)
閉会の挨拶
18:40~
((報告要旨))
【第1報告】「米中貿易紛争の現状と注意点-特に刑事罰に注意して―」
報告者:内田芳樹氏(MDPビジネスアドバイザリー(株)・ニューヨーク州弁護士)
米中覇権戦争が複雑なのは、両国政府がお互い容認し合っている取引と厳しい規制がかかっている取引、そしてどちらか曖昧な取引が混在していることが大きな理由の一つではないかと考える。米国法の域外適用も従前の理論を越えてOFACの第二次制裁が科された事例が既に存在する。日本企業は、この環境下で米国司法省が企業に対し整備を求めるコンプライアンス・プログラム策定・実施や電子証拠(Electronic Evidence)対応等、米国刑事法上の事前対応が求められることが案外意識されておらず、経済産業省が推薦するCISTECによる推奨対応も旧来のCOCOMや外為法違反対応が前提となっているように見える。本研究発表では、米国内に何ら拠点のない日本企業がOFACやBISといった米国政府機関から自社の対中取引や中国と共同研究を理由として制裁を受ける可能性と事前の対応策・問題視された際の対米国当局宛て交渉方法等について具体的事案も想定しながら協議したい。
【第2報告】「北極海航路についての2022年の回顧と2023年の展望」
報告者:合田浩之氏(東海大学・教授)
2022年2月,ロシアによるウクライナへの特別軍事行動が断行され,少なくとも西側諸国(西欧・米国・日韓等)によって,以後,ロシアへの経済制裁(特に,石油ガス類の貿易への制限)がなされた。また,西側諸国企業による対露取引の自粛が広範に観られた。
北極海航路(Northern Sea Route,The Northeast Passage)においては,貨物輸送については,基本的には,ロシア北極圏からの資源類(石油・液化天然ガス・石炭・ニッケル等)の資源の搬出と,ロシア北極圏沿岸における資源開発のための,資材・機器類の同地域への搬入が,その貨物輸送の太宗である。
日本の一部に於いては,アジア-欧州航路のショートカットが可能なる航路としての期待,とりわけコンテナ輸送への利活用への期待があるが,そのような可能性は乏しい。そして,コンテナ輸送以外でのアジア-欧州航路のショートカットとしての利用自体,余り多くない。
それはさておき,北極海からの液化天然ガス輸送については,日本企業の参画もみられる。
本報告では,西側諸国政府による対露経済制裁・西側企業による取引自粛を振り返ると共に,北極海航路の荷動きが,第一に2022年のそれが,2021年のそれとの比較でどのように変わったか検証する。第二に,ロシア領域の北極海沿岸における資源開発の見通しと,近未来の荷動き見通しを試みる。第三に,北極海からの液化天然ガス輸送に参画する日本企業について,そのリスクとリスク軽減策の現実的な可能性について指摘する。
もし報告時間に余裕があれば,日本国での関心事項であるコンテナ輸送が,何故可能性が小さいと判断されているのか,ということについて,説明を加えることになるかもしれない。
【第3報告】「司法の国境がなくなる:米国管轄権の拡大と日本企業の対応」
報告者:秋山武夫氏(元Pillsbury Winthrop Shaw Pittman・ニューヨーク州弁護士)
日本の自動車部品メーカーが日本の自動車会社への販売に関し、日本で行ったカルテルでは、その部品を搭載した車が一部アメリカで販売されたことを根拠に、日本人幹部60人、日本の部品メーカー30社が刑事訴追の対象となりました。(日本で行われたカルテルで、間接輸出のケースです)30人が1-2年の禁固刑、執行猶予なしです。会社は23億2240万ドル(3250億円)の罰金を科せられました。日本企業やその従業員は日本での商取引においても、米国を含む諸外国の法律にどう対応していかなければならないか考え、対策を講じておかなければなりません。
金融商品取引法違反や会社法上の特別背任で起訴され、レバノンに密出国したカルロス. ゴーンのケースは記憶に新しいと思います。このケースでは日本の刑事制度の在り方が諸外国より痛烈な批判を浴びることになりました。小さな島国の村社会であった日本もどんどん国際化しており、犯罪も国際化しております。現在の制度疲労を起こした明治維新以来の刑事制度に頼るのではなく、国際基準での刑事訴追制度の構築に向けて真剣に取り組む時が来ているように思われます。
本報告では、特にホワイトカラークライムに関して、コンプライアンスを含む民間レベルでの対応、また国のレベルでは日本の刑事司法制度をどのように改革すべきかについて、米国の制度との比較において考えていきたいと思います。
【第4報告】「東アジアの家族企業における事業承継とビジネスコミュニケーションの役割」
報告者:洪性奉氏(就実大学・専任講師)
家族企業におけるビジネスコミュニケーションは、健全な企業経営の大前提であり、その存続と事業承継に大きな影響を与えている。家族企業が他のタイプの企業と異なる点の一つは、創業家がその企業を所有・支配していることである。企業に多大な影響を及ぼす創業家において、家族経営がうまく機能するために最も重要な点は創業家内のコミュニケーションの役割である。したがって、本研究は「似て非なる」東アジア諸社会(日本・中国本土・台湾・香港・韓国)の家族企業における事業承継の事例を取り上げ、事業承継を取り巻く家族経営構造の中で、ビジネスコミュニケーションの重要性と役割に焦点を当てて考察し、今後のさらなる研究展開に向けたリサーチ・クエスチョンの発見・整理に主眼点を置くことが目的である。研究の枠組みとして、河口・竇・洪(2020)の家族企業における3つの経営「企業経営」、「家族経営」、「財産経営」視点から有効な理論の構築を導くため、フィールドワークを行い、その調査結果から得た情報の因果関係を読み解くことによって、事業承継の複雑なダイナミズムを解明するアナロジーの発想を用いた。
以上