2016年11月

会長退任のご挨拶

齋藤 彰img_5576

 2016年11月の全国大会で会長の任期が終わりました。2010年に神戸学院大学で開催された全国大会において、富澤敏勝先生を引き継いで会長に就任してから6年間この学会の会長を務めたことになります。その間の、会員の皆様のご支援に心より感謝致します。

振り返れば、2001年に新堀 聡先生から、中村秀雄先生の完全合意条項に関するご報告のコメンテータを務めるよう依頼をいただき、同志社大学で開催された西部部会に参加したのを機会に本学会に入会しました。そのときに、絹巻康史先生、柏木 昇先生ともお話ししたことを覚えています。本学会はすでに私が入会した頃から、全国大会に加えて東部・西部の部会を開催し、多数の会員に報告の機会を提供する形式をとっていました。私個人としても、本学会が創設されたときから、法学と商学とを架橋するというコンセプトに強く惹かれており、その活動に注目していました。だから新堀先生に声をかけていただいたことは幸運なことでした。それからも、浅田福一先生、斎藤祥男先生、曾野和明先生、北川俊光先生、椿弘次先生、山邑陽一先生、長谷川俊明先生、亀田尚己先生、そのほか多くの先輩の方々に暖かく接していただきました。この学会を通じて多くの方々と知り合い、商学や実務の知識を学ぶ機会を得たことは、その後の私の研究教育において極めて重要な意義を有しています。

何かのご縁をいただき、私が会長を務めたこの6年は、学会創設の中核を担われた方々がそろそろ学会運営から離れられ、創設後に入会した会員の方々が活動の中心を担うようになる丁度その移行期にあったと考えます。この学会はこれまでにも多数の問題に遭遇してきました。商学と法学との間の様々な葛藤や、研究報告の水準等が深刻な問題となった時期もあり、そのために理事会や総会が紛糾する場面も少なからずありました。しかし、こうした幾多の困難を乗り越えることを可能としたのは、本学会の学際的で開放的な運営に対する会員の方々の熱い期待であり、それがいつも本学会の原動力であったと感じています。それは2016年夏に実施したアンケートにおいて、多くの会員の方々が入会に際して評価した点として、「研究者と実務家がともに会員となっている」「『商学と法学との架橋』というコンセプト」「公募による研究報告制度」が上位3点となっていることから、現在にも受け継がれているものと考えます。

来年で創設20年の節目をむかえる本学会は、創設時の理念を次世代にどのように引き継いで行くかを真剣に検討すべき重要な時期にあります。学会は公器であり、究極的には社会に貢献することを目的とします。他方で、学会は、その時々の会員の方々の総意に沿って運営される必要があります。しかし、この世に数多存在する学会の中にあって、本学会が有する特徴や強みに軸足をしっかりとおかない限り真価は発揮されず、その存在価値は失われ、結果として会員の方々の期待に応えることもできなくなります。創設の時から本学会の中心的価値として埋め込まれているのは、多様な社会的背景をもつ人々の協働を可能とする、開放感と冒険心にあふれたフォーラムとなることにあり、それを通じて高い研究水準や新たな問題提起を生み出すことにあると私は考えてきました。

そうした本学会の強みが、次期の高杉直会長及び理事の方々の主導によって、大いに展開されることをここに祈念いたします。また、会員の方々には、これまでと同様の学会活動への熱心なご参加を心よりお願い申し上げます。

私事にわたり誠に恐縮ですが、この6年間、大学では確たるビジョンのない教育制度の改変が無節操に繰り返されました。その渦中の国立大学に勤務する一人として、苛酷な労働環境に耐えながらの会長の任期であり、満足するには程遠いことしかできませんでした。そうした中、本学会の運営の責任を一緒なって背負っていただいた理事の方々、そして本学会の活動を様々な形で支援していただいてきた多くの会員の方々に心より感謝致します。また最後に、身体精神の限界に何度も追い詰められた私を全力で支えてくれた妻の佳子と、学会活動の価値に賛同し献身的に助力してくれた神戸大学法学研究科の学生諸君に、この場を借りて感謝の意を表することをお許し下さい。

もちろんこれからも、一人の会員として本学会の発展のためにできる限りの協力をさせていただくことをお約束して、会長退任のご挨拶とさせて頂きます。

 2016年11月