第8回模擬仲裁日本大会を終えて

 国際商取引学会会長 齋藤 彰

 第8回模擬仲裁日本大会が、国際商取引学会の主催により2015年2月21日・22日に神戸大学六甲台キャンパスで開催された。今回は、全国から9チーム(北大・早大(久保田ゼミ)・早大(浜辺ゼミ)・一橋・名大・京大・京産大・同志社・神大)の参加があり、過去最大規模の大会となった。参加学生は111人、仲裁人27人、各大学チームのコーチ8人が参加した。

 各チームは2人の弁論者(弁護士役)による対戦をそれぞれ4回行い、その合計点によってチーム戦の順位が決定される。それぞれの対戦の採点は、国際商事仲裁に詳しい実務法律家や研究者が扮する3名の仲裁人役によって採点される。対戦は、原則として日本語と英語の対戦が半々ずつとなる。

 今年はチーム戦の入賞は、第1位が名古屋大学チーム、第2位が早稲田大学(久保田ゼミ)チーム、第3位が神戸大学チームとなった。それに続いて4位は同志社大学チーム、5位は北海道大学チームであった。

 また個人賞として、英語弁論・日本語弁論それぞれでの得点(複数回弁論した場合はその1回の平均点)上位から3名を優秀弁論者として表彰を行った。英語弁論では、第1位が Benjamin RAETZさん(名大)、第2位が Qi Jun KWONGさん(名大)、第3位が齋藤光理さん(神大)となった。

 日本語弁論では、第1位が木下志保さん(同大)、第2位が梶田莉緒奈さん(早大)、第3位が渡部愛帆さん(早大)となった。

 今年は全国からボランティアとして、27名の法律家の方々に仲裁人役をお引き受けいただくことができた。さらに各チームのコーチである研究者の方々にも仲裁人役として加わっていただいた。また海外からのゲストとして韓国漢陽大学校法学専門大学院の韓忠洙教授、香港大学法学部の趙雲教授にも仲裁人役をつとめていただいた。お二人には、21日に行われたPre-moot Conferenceでの講演もお願いした。

 この大会は今年で8回目となる。第1回は2008年に、日本の大学のチームが国際大会に参加するための予行演習的なトレーニングの機会として開始された。その時には、神戸大学・同志社大学・早稲田大学(久保田ゼミ)の3つのチームのみの参加であった。このようにしてスタートした本大会であるが、現在ではこの模擬仲裁日本大会経験者の中から国際商事仲裁に関する業務を扱う法律家として活躍する人たちも育ってきており、すでに各チームのコーチとして後輩を指導するようにもなってきている。模擬仲裁に参加したOB/OGが結成したJAMAという組織も正式に発足し、本大会の開催にも協力いただいている。模擬仲裁を通じてますます優秀な人材が育つことを心より願う。

 模擬仲裁の国際大会への参加校は増加しつつあり、Vis Mootのウィーン大会には300校を超える世界中の大学が、香港大会には100校程度の大学がチームを派遣するようになった。そうした中、日本のチームを取り巻く状況は決して良好とはいえない。とくにアメリカのロースクールや大学院レベルでのチームが増えており、学部生を中心としてチームを作ってきた日本の大学にとって、毎年のように高度化する出題や英語での弁論技術の進化に対応することは容易ではない。

 模擬仲裁日本大会において扱われる問題は、日本の各チームも3月に参加するVis Mootと呼ばれる大規模な模擬国際商事仲裁大会(毎年春に香港とウィーンとで口頭弁論大会が開催される)のために毎年10月に出題されたものを用いている。この問題は、国際的な取引において生じた紛争に関する商事仲裁手続に提出された書面や証拠書類を集めたものであり、各チームは実際にそうした仲裁事件の弁護を依頼された弁護士として、約半年間をかけて準備書面を作成した上で、指定された期日に香港またはウィーンで口頭弁論を行うための準備を重ねることになる。

 最近の日本からのチームにとっての最大の問題は、問題が難し過ぎるために、法律的にそれをしっかりと分析し、考えを組み立てる余裕がないことである。そこで、とりあえず法律的には表面的な理解をだけに止め、むしろ英語の弁論をうまく行うことに注力するという傾向も目立つように思われる。こうした傾向のためか、模擬仲裁大会自体が、口頭による英語の弁論大会の一種として誤解される場面が増えている。

 こうした状況は、日本の法律家の将来にとって、決して好ましいものではない。法律英語を操る能力はますます各方面で要求されるようになってきているが、それにもまして高度に発展してきた国際商事仲裁における法理論を十分に理解し、国際ビジネスにおいて生じる紛争を適切に扱うことができる強靱な法律的知見も厳しく要求されているところである。こうした面において、日本の法律家の人材不足は、英語力の不足にも増して深刻であるといっても過言ではない。

 こうした問題点に対応するための新しい試みとして、この第8回大会からPre-Moot Conferenceという学会をこの模擬仲裁大会の第1日目に開催することにした。そこでは、今年の問題で取り上げられている国際商事仲裁に関連した最新の論点をいくつか取り上げて、それぞれを専門とする国際的な研究者が広い視野からそれを客観的に分析し説明し、それに関して模擬仲裁に参加する学生諸君が様々な質問や議論を行うことを目的としている。今年は、1)国際商事仲裁手続きの全体の流れ、2)緊急仲裁制度、3)国際仲裁における多数当事者参加、4)国際商事仲裁における弁論技術について4つの報告が行われ、活発な議論がなされた。参加者は40名程度となり、学生諸君の法律論的な問題についての関心の高さも明らかとなった。今後、模擬仲裁の参加者に必要とされる法律学的な知見を高めるために、模擬仲裁を活用したこうした機会を提供していくことの重要性が明らかとなった。

 模擬仲裁大会の成否は模擬仲裁の審査を行う仲裁人役の方々に負うところが大きい。とくに仲裁手続の一環としての、弁護士役の学生の仲裁人の反応や質疑応答はきわめて重要なものであり、そうしたプロセスを通じて学生の国際商事仲裁についての理解が深まり、法律家として必要とされる様々な能力について学ぶ機会となる。熱意に満ちた多くの仲裁人役の方々に支えられて充実した模擬仲裁大会となった。

 本大会の開催に当たっては、日本商事仲裁協会大阪事務所、日本仲裁人協会関西支部、神戸大学法学研究科に共催をお引き受けいただいた。また国連国際商取引法委員会アジア太平洋地域センター(UNCITRAL-RCAP)には公式の協力機関として、凌霜会(神戸大学社会科学系学部同窓会)にはスポンサーとして加わっていただくことができた。ここに感謝の意を表したい。

2015年2月23日