西部部会のお知らせ

国際商取引学会 会員の皆さま

今回、下記の通り、西部部会in Korea(国際ビジネスコミュニケーション学会との合同部会)の報告要旨をお送り致します。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

・開催日時:3月15日(土)13:00~17:00
・開催場所:慶星大学4号館(商学館)101号室(https://kscms.ks.ac.kr/eng/CMS/Contents/Contents.do?mCode=MN045)
(ハイブリッド方式〔オンライン配信あり〕)

≪部会プログラム≫
【開会挨拶】(13:00~13:05)
【個別研究報告】(13:10~17:00)
座長:中村進氏・特任教授(日本大学、国際商取引学会会長)
(1)「デジタル通貨の未来―日中のCBDC導入プロセスの比較を通じて」、鷁田えみ氏(特任助教・東京大学)【13:10~13:50】
(2)「太平洋戦争開戦前夜における日本政府による便宜置籍船利用の模索」、合田浩之氏(教授・東海大学)【13:55~14:35】
(3)「韓国と日本の貿易取引における代金決済方法の現状について」、姜鎮旭氏(副教授・慶星大学)【14:40~15:20】
(4)「JAFTASの成功要因とEPA・FTA利用に関する手続き電子化の展望について」、長沼健氏(教授・同志社大学)【15:25~16:05】
(5)「交渉における利害の発見方法に関する考察」、高森桃太郎氏(准教授・関西学院大学)【16:10~16:50】
【閉会挨拶】(16:55~17:00)
【懇親会】(17:30~19:30)

≪報告要旨≫
[第1報告]
タイトル:「デジタル通貨の未来―日中のCBDC導入プロセスの比較を通じて」
報告者:鷁田えみ氏(特任助教・東京大学)

本報告は、中国と日本における中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入に向けた制度設計を比較し、それぞれの法的課題を検討するものである。特に、中国のデジタル人民元(e-CNY)は急速に発展しており、その制度設計や実証実験の進展は注目に値する。
中国では、e-CNYが「法定通貨」として中央集権的に管理され、商業銀行などの運営機関との二層構造で発行・流通される。また、政府は「管理された匿名性」の原則を採用し、クロスボーダー決済の実証実験も推進している。しかし、モバイル決済との競合、AML/CFT対策、データ保護などの課題があり、関連法の整備が急務となっている。
一方、日本では、CBDC導入の可否を慎重に検討しつつ、民間企業を交えた議論が進められている。CBDCの設計においては、銀行預金や既存の決済手段との共存、プライバシー保護、システムの安定性確保が重要な論点となっている。
中国と日本のCBDC制度設計には、安全な決済システムの構築、金融包摂の推進、通貨主権の維持といった共通課題がある。特に、ブロックチェーン技術や二層構造の導入などに類似性が見られ、中国の実証実験の進展は日本にとって有益な参考事例となる。CBDCは決済手段にとどまらず、社会的・経済的インフラとしての役割を担うため、技術革新に対応可能な柔軟な法制度の構築が求められる。今後、政策・技術・法の観点から総合的な議論を深め、CBDCの課題を克服することが重要である。

[第2報告]
タイトル:「太平洋戦争開戦前夜における日本政府による便宜置籍船利用の模索」
報告者:合田浩之氏(教授・東海大学)

報告者は,便宜置籍船の利用について研究を重ねてきた。特に戦前から今日に至るまでの日本の船主による便宜置籍船の利用については,過去に概説したことがある(『戦後日本海運における便宜置籍船制度の史的展開 』(単著)青山社(2013年))。
 扨,今般,筆者は,外務省外交史料館に所蔵せる公文書(16.南米ニ於ケル本邦系船会社設立関係」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.B09030169700、本邦汽船会社関係雑件 第二巻(F.1.5.0.13_002)(外務省外交史料館))にを発掘した,これによれば,昭和15年末から昭和16年にかけて,日本政府は,日本商船を南米諸国に便宜置籍することを試みたことが,判明する。
この時期は,日本は未だ米英と開戦していない段階であるが,日本の通商や日本商船(基本的には日本籍船)の活動は,英米(本国・属領含む)から圧迫される一方で,日本の海運会社の中には。日本商品の新規輸出市場開拓を背景に,中南米への営業拠点設立の動きが見られた時期でもあった。
また日本近海では,日本の事実上の交戦国であった中華民国の船主の一部は,さまざまな理由から,パナマ置籍を実現,その事実は日本政府も掌握していたと考えられる。加えてこの時代の日本の私人の中には,実際にパナマ籍船を所有したこともわかっている。
本報告では,この時代の日本政府の主に南米を船籍とする便宜置籍船利用の試みを中心に,この時代の日本の官民関係者による便宜置籍船利用についての歴史を描写するものである

〔第3報告〕
タイトル:「韓国と日本の貿易取引における代金決済方法の現状について」
報告者:姜鎮旭氏(副教授・慶星大学)

貿易取引における代金決済方法は1990年代まで信用状、取立、送金が用いられてきた。特に信用状は最も安全な方法であるため、世界的に広く用いられた。韓国では、過去において、信用状が通知される金額をみて将来の輸出額を予想する基準として活用されるほど、信用状が多用された。しかし2000年代からグローバル化の進展と韓国金融危機の回復に伴う規制緩和、電子化などの技術発展等によって信用状の代わりに送金の使用が急増し、今は信用状に取って代わって最も用いられるようになった。また、規制緩和により伝統的な方法以外の新たな代金決済方法も使用されている。
したがって、本発表では、韓国税関のデータを用いてまず韓国と日本間の貿易取引に使用される代金決済方法の全体を把握する。またHS Code 2単位の物品を取引する際の決済方法を分析して物品によって使用される代金決済方法の特徴を明らかにしたい。最後は代金決済方法が変化し、多様化した要因を探ってみたい。

〔第4報告〕
タイトル:「JAFTASの成功要因とEPA・FTA利用に関する手続き電子化の展望について」
報告者:長沼健氏(教授・同志社大学)【15:25~16:05】

本報告では、EPA・FTA利用に関する手続き電子化システムであるJAFTAS(Japan Automotive FTA System)の現状を述べた上で、その成功要因を考察する。
現在、日本においては、これまで24か国・地域と21の経済連携協定(EPA/FTA)等が発効済・署名済となっている(2025年1月時点)。これらによって、相手国との貿易が貿易総額に占める割合は78.8%となり、その活用により、日本の企業は輸出品に関して関税減免の恩恵を受けることが可能となる(これに加えて、交渉中EPA/FTA等の相手国との貿易が貿易総額に占める割合は87.1%となる)。このように、EPAやFTAの拡大は国際貿易の自由化を推進すると期待されている。
しかしながら、日本企業によるEPA/FTA活用はまだ進んでいない。例えば、ジェトロ(2023)によると、その利用率は、62.4%である。そして、その大きな障壁となっているのが「原産性証明」手続きの煩雑性や複雑性であるとの指摘がある。
そこで、本報告では、まず、上記の問題を解決する手段の一つとして、電子化が大きな役割を担っていることを説明した上で、その成功事例として、JAFTASを紹介する。また、その現状を示すとともに、JAFTASの成功要因について考察する。最後に、EPA・FTA利用に関する手続き電子化の今後の展望について述べる。

〔第5報告〕
タイトル:「交渉における利害の発見方法に関する考察」
報告者:高森桃太郎氏(准教授・関西学院大学)

Getting to Yes(ハーバード流交渉術)という著書は実践的な交渉学の古典として位置づけられている。ここからBATNAを含め重要な交渉概念が知られるようになった。同書では交渉を人(people)、利害(interests)、選択肢(options)、基準(criteria)の4つの基本要素から成るものとして捉えている(野村、2013)。
上記の二つ目のキーワードは、交渉者は立場(一方の交渉当事者が最初に行う主張)ではなく利害(利益、真の目的やゴール)に注目するべきであるという原則の中で提示されている。この考え方はいわゆる「ハーバード流」以外の先行研究においても重視されているものであるが、交渉においては自分と相手の利害を把握することが往々にして困難であるという問題がある(Sebenius & Lax, 2006)。しかし、利害を効果的に発見する方法については、相手の話に耳を傾けるなどの基本的な心構えが提示されている以外は、記述が限られている。そのため今回は、利害発見のために交渉当事者が行える工夫について、ビジネスの事例のみならず、異なる文脈の事例やデザイン思考の概念などを踏まえ考察する。そこから「脱文脈化」「重要事項の認識」「当事者が最初に求めていた結論とは異なる結論」という概念で交渉における利害探索・発見について整理したいと考える。

以上