3学会(国際商取引学会・国際ビジネスコミュニケーション学会・ 日本港湾経済学会)合同部会の開催について【盛会御礼】


「3学会(国際商取引学会・国際ビジネスコミュニケーション学会・ 日本港湾経済学会)合同部会」 は、盛会のうちに終了致しました。ご多忙の中、多数お集まり賜り誠にありがとうございました。

内容は下記の通りでございます。

日時:3月19日(土)12:00~13:00 理事会、13:05~17:25 開会式・研究報告会

〈研究報告会〉

【13:10~13:55】

第1発表「荷主と物流事業者の連携による輸送網集約の効果と可能性~物流総合効率化法における取り組み事例から~」、報告者:田中康仁氏(流通科学大学・准教授)、司会:石田信博氏(同志社大学・教授)

【14:00~14:45】

第2発表「COVID-19の感染拡大による自動車海上輸送の動向と運送書類への影響」、報告者:長沼健氏(同志社大学・教授)、司会:中村嘉孝氏(神戸市外国語大学・教授)

(中休み)

【15:00~15:45】

第3発表「ロシアにおけるインコタームズ:現状と課題」、報告者:キセリョフ エフゲーニ氏(神戸薬科大学・講師)、司会:久島幸雄氏(関西学院大学・講師)

【15:50~16:35】

第4発表「金融取引におけるターム物リスク・フリー・レートの使用に関する検討―LIBOR公表停止後の望ましい金利指標のあり方―」、報告者:中村篤志氏(新潟大学・講師)、司会:渡邊隆彦先生(専修大学・教授)

【16:40~17:25】

第5発表「インド家電市場における韓国企業の現地化戦略の再考察」、報告者:洪性奉氏(就実大学・講師)、司会:中谷安男氏(法政大学・教授)

〈研究報告の概要〉

◆報告題目:「荷主と物流事業者の連携による輸送網集約の効果と可能性~物流総合効率化法における取り組み事例から~」

◆氏名(所属・地位):田中康仁氏(流通科学大学・准教授)

◆所属学会:日本港湾経済学会

◆要旨:

2005年の物流総合効率化法の策定から、十数年余りが経ち、物流を取り巻く環境も大きく変わってきた。従来の安全対策、渋滞対策および環境問題への対応から、物流ニーズの高度化・多様化等への対応、さらには昨今のドライバー不足への対応である。こうした状況を受けて、2018年10月、物流総合効率化法の改正が行われた。この中で、特に重点が置かれていたのが「多様な関係者の連携」を進めることにより、生産性を向上し、物流ネットワーク全体の省力化・効率化を更に進めていく枠組みの必要性である。

そこで、本報告では、物流総合効率化法の具体的な取り組み事例である「輸送網の集約」、「モーダルシフト」、「輸配送の共同化」の効果について検証し、次いで「輸送網の集約」に焦点を当てて、実際の取り組み事例の経緯とその成果を紹介した上で、今後の輸送網集約の可能性について検討したい。

具体的には、まず、1)国土交通省の資料を基に、物流総合効率化法の取り組み(輸送網の集約、モーダルシフト、輸配送の共同化)の効果について検証する。次いで、2)輸送網の集約に焦点を当てて、実際の取り組み事例の経緯とその成果を紹介する。最後に、3)京阪神都市圏における物流施設の立地分析から得られた成果を基に、輸送網集約の可能性を探りたい。

◆報告題目:「COVID-19の感染拡大による自動車海上輸送の動向と運送書類への影響」

◆氏名(所属・地位):長沼健氏(同志社大学・教授)

◆所属学会:日本港湾経済学会、国際商取引学会、国際ビジネスコミュニケーション学会

◆要旨:

COVID-19の感染が拡大したことで、世界中でロックダウンやステイホームなどの職場閉鎖や移動制限が起こった。IMFはこれを「大封鎖」と呼んだ。このように、経済活動の基盤である人・モノ・カネの流れが制約されたことで、世界経済の活動が大きく停滞した。世界のGDP(2020年)は前年比で3.3%減となり、世界の貿易は前年比で7.3%減まで大幅に落ち込んだ。日本においても、飲食や宿泊業界を中心に多くの企業が苦しい経営を余儀なくされた。その結果、2020年度のGDPは前年比で4.6%減と、リーマンショック超える戦後最大の下落となった 。

COVID-19の影響は、日本の基幹産業である自動車産業にも及んだ。例えば、トヨタの2020年のグローバル販売実績は前年比で10.5%減、輸出では17.9%減となった。また、トヨタを含む自動車メーカー8社が発表した2020年の世界生産台数の合計は、前年比17.9%減の2282万5343台となり、大幅に落ち込んだ。自動車産業の落ち込みは、日本経済の様々な分野に影響を与えた。その中には、自動車などの製品を輸出する上で重要な役割を果たしている海上運送にも影響が及んでいる。しかしながら、これらの影響について具体的な企業活動のデータを用いて分析した研究は多くはない 。

そこで、本研究では、COVID-19の感染拡大が日本における自動車輸出の海上運送に与えた影響とそこで使用される運送書類の変化について、船会社の運送書類発行データを時系列分析することで考察したい。その手順は以下の通りである。まず、COVID-19の感染拡大による自動車産業への影響について述べる。次に、COVID-19の感染拡大が自動車産業の輸出(海上運送)にどのように影響を与えたのかを、「運送書類の発行数」と「運送書類の種類」という2点から、船会社の時系列データを用いて分析し考察する。最後に、これらの分析を通じて明らかになった点を整理し、本研究の課題について述べる。

◆報告題目:「ロシアにおけるインコタームズ:現状と課題」

◆氏名(所属・地位):キセリョフ・エフゲーニ氏(神戸薬科大学・講師)

◆所属学会:国際商取引学会、国際ビジネスコミュニケーション学会

◆要旨:

 本報告では、ロシアにおけるインコタームズの現状と課題について考察したい。インコタームズは、貿易取引条件としてソ連時代からロシアの貿易で一般的に使用されているが、近年インコタームズに対するビジネスのアプローチに変化が見られる。例えば、2010年代からは、ロシア国内でもインコタームズの使用が増加している。また、売買取引を中心とするインコタームズは物流(例えば、運送会社の間のやりとり)などに使われることが増えているという報告がある。さらに、カスタマイズ化されたインコタームズ(例えば、FOB loaded、FOB deliveredなど)、すなわち 国際商業会議所(ICC)の定義と異なる意味で使われるインコタームズが見られる。ロシアにおけるインコタームズの使用に関しては統計や正式的な数字が報告されていないが、裁判のデータを通じてこの使用の変化について述べたい。

 また、ロシアでは商取引について民法典に細かい規定があるにもかかわらず、売主と買主との間でのリスクの移転時点や運賃や保険料等の費用の負担区分などについてのロシア法の説明がインコタームズほど詳しくないという批判が指摘されている。また、ビジネス的には、幅広いロシア国内の取引でも複雑な物流ルートがあるため、インコタームズを利用した方がスムーズであり、これはインコタームズの強みとしてロシアの研究者により報告されている。この影響を受けて、2010年代に入ってからインコタームズは、ロシアの商慣習として国内取引にも使うことが可能になり、さらにロシアの貿易支援機関がインコタームズのメリットをアピールしている。一方、国際貿易を特色とするインコタームズはロシアの法律に直接反映されておらず、ロシアの税金と契約に関する法律の関係で全てのインコタームズが国内取引に使えるわけではないので、国内法とインコタームズで矛盾している場合もある。ロシアの裁判においても、インコタームズがロシアの法律に定められていないという点が判決に直接影響を与えるケースが少なくなかったが、2014年のロシア最高仲裁裁判所の説明により、商慣習としてインコタームズへのアプローチが改善されたと考えられる。このように、近年のインコタームズに対するロシアの態度について考察したい。

◆報告題目:「金融取引におけるターム物リスク・フリー・レートの使用に関する検討 ―LIBOR公表停止後の望ましい金利指標のあり方―」

◆氏名(所属・地位):中村篤志氏(新潟大学・講師)

◆所属学会:国際商取引学会

◆要旨:

2021年末、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)の公表が原則として停止された。従前、わが国では、金融取引における指標金利としてLIBORを最も広範に使用しており、この点は他国と同様であった。しかしながら、ポストLIBOR時代における代替金利指標として、グローバルにはオーバーナイト物リスク・フリー・レート(O/N RFR) 後決め複利が主として想定される一方、わが国では、ターム物リスク・フリー・レート(ターム物RFR)の広範な利用が見込まれており、この点で他国とは異なる独自の路線を進み始めている。本稿では、主として英国および米国との比較を通じて、ターム物RFRの使用にかかる諸論点を検討するとともに、望ましい金利指標のあり方を考察する。

まず前提として、世界でターム物RFRが構築されているのは、英国、米国、日本のみである。もっとも、英国および米国では、ターム物RFRの利用に一定の制限をかけており、また、金融安定理事会(FSB)もこうした制限の妥当性を示唆している。この背景として、①ターム物RFRの裏付け市場であるデリバティブ市場(OIS市場)の流動性向上が必要であること、②ターム物RFR参照キャッシュ商品の増加がO/N RFR 後決め複利参照キャッシュ商品の増加を妨げ、結果的に、OIS市場の流動性を低下させる可能性があること、③金融機関がOIS取引およびターム物RFR参照貸出を同時に実行するケースなどで、利益相反が発生する可能性があること、の3つのリスクが挙げられている。

英米でのこうした議論もふまえ、わが国のターム物RFRである「東京ターム物リスク・フリー・レート(TORF)」の利用に向けた対応を考察する。まず、①日本円金利指標に関する検討委員会(事務局:日本銀行)や金融当局のイニシアチブにより、円金利スワップ市場において取引の中心となるべき代替金利指標が無担保コールオーバーナイト物レート(TONA)であることが明確化されたため、OIS市場の流動性は明確に向上している。次に、②O/N RFR 後決め複利参照キャッシュ商品の増加を企図して、O/N RFR 複利の計算結果であるTONA IndexやTONA Averagesの公表が開始されている。更に、③金融機関の利益相反のおそれに対しては、金融商品取引法上の規定のほか、TORF運営機関による業務規程や、TORF監視委員会によるモニタリング、レポーティング・ブローカーに対する行動規範の制定等によって、頑健なガバナンス体制の構築が図られている。

こうした対応により、TORFの利用にかかるリスクは低減されるものの、課題は残されている。第1に、①金融機関がベーシスリスクおよびカウンターパーティーリスクを負うこととなる点である。すなわち、金融機関が、TORFを参照して資金調達した顧客に対して、当該資金調達にかかるヘッジのためにTORFスワップを提供した場合、インターバンク市場でのカバー取引をOIS取引で実施することになるため、金融機関はベーシスリスクを保有する。また、インターバンク市場におけるTORFスワップの流動性向上は見込まれないため、中央清算機関(CCP)の清算集中取引の対象となることは見通し難く、結果として、金融機関がカウンターパーティーリスクを保有することとなる。第2に、②英国および米国では、O/N RFR 複利の計算結果が中央銀行から公表されている一方、わが国では、日本銀行ではなく、民間企業によって算出・公表されている。この点、公表レートへのアクセシビリティやクレディビリティの観点では、わが国でも中央銀行による公表が期待される。第3に、③利益相反の観点では、例えば英国における対応と比べると、金融機関へのガバナンス体制の強化などの点で更なる検討の余地がある。

◆報告題目:「インド家電市場における韓国企業の現地化戦略の再考察」

◆氏名(所属・地位):洪性奉氏(就実大学・講師)

◆所属学会:国際商取引学会

◆要旨:

インド市場はビジネス環境において中国市場と大きく異なっており、外資系企業が進出をする際には十分な注意が必要である。その期待とリスクの高いインド市場において、韓国企業は先行参入していた外資系企業よりも、一貫して業績を伸ばすことができた。その理由は、①単独出資による完全子会社、②早期進出と集中投資、②徹底した現地化戦略である。しかし、近年、グローバル市場における多国籍企業の競争戦略を考える際に、海外子会社の現地化戦略とグローバル統合化戦略を分離して考えることは難しい。したがって、本研究では、インド家電市場における韓国家電メーカーの現地化戦略の再考察を行うことで、グローバル統合化または現地化の追求を二者択一として見るのではなく、現地国の環境要素や産業の特性および、企業の状況に合わせて現地化のレベルを決定すべきであるという視点から検証を試みたい。

本研究の目的は、多様性と特殊性を持つインド家電市場を取り上げ、早期進出を行った韓国家電メーカーの戦略行動における本社の意思決定について、在外子会社の現地化戦略とグローバル統合化戦略の事例を取りあげ検証を試みることである。これまでの研究の中で、インド家電市場において韓国企業が競争優位を実現できた主な理由は、単独出資による完全子会社化と早期進出、集中投資、そして徹底した現地化戦略であることが明確にされた。さらに、LG電子インド法人(以下、LGEILと略す)の場合、進出初期から販売戦略と流通戦略、製品戦略、価格戦略、人事および労務管理において現地化を全方位的に進めていたことが分かった。しかし、LGEILが徹底した販売、流通、製品、価格の現地化戦略、さらに人事および労務管理の現地化戦略を検証してみると、本社の集権的な「グローバル統合化」又は柔軟な「トランスナショナル型」が見られ、従来の現地化戦略だけでは説明仕切れない難点がいくつかある。したがって、本研究ではLGEILだけではなく、サムスン電子インド法人の事例も入れて、海外進出におけるグローバル組織と現地化戦略の特徴について再考察を試みる。

以上