歴代会長による声明

拙速な新司法試験・法曹養成制度・法学教育の改革に反対します

 

現在、選択科目の廃止を含めた新司法試験の改正法案が準備されているとの情報があります。また、その背景として法学部を3年間で早期卒業させ法科大学院を2年間で修了させることによって大学で教育を受ける期間を削減し、法科大学院2年次の夏頃に新司法試験を受験できるようにすることにより、予備試験へと流れる学生を減少させ、さらに法科大学院修了直後から司法修習を行うことで法律家資格を得るまでに必要な期間を短縮することが目指されているようです。

そうした制度の変更に備えるために、日本中の法学部において3年間のうちに法律基礎科目の比率を高めた教育を行うためのカリキュラムの準備が開始されており、法科大学院においても最初の1年半で新司法試験に合格する水準に達するように、法律基礎科目を集中的に教育することが考えられています。この改革が実現された場合に予測されることは、将来法律家になることを目標とする学生は、法学部時代から法律基礎科目の学業に多くの時間と労力を割き、早くから新司法試験に焦点を当てた受験準備が加速することです。

このような拙速な改革の結果として最も危惧されるのは、インターンシップや模擬仲裁国際大会参加等の経験・ビジネスに関連する応用的な法律科目の履修・商学等も含めた学際的思考力・語学力の涵養・一般教養の醸成などに必要とされる教育が、法科大学院のカリキュラムだけでなく、法学部の教育においても軽視されることにより、現在のビジネス界の要請に応えることができるような法律家が極めて育ちにくくなることです。そしてそれは、時代に逆行することを意味します。

多様化する社会の要請に対応することができる法律家も含めた高度専門職の養成には大学教育と職務上の習練が有機的に組み合わされた充実した教育期間が何よりも重要です。したがって教育期間の短縮よりも、若者が伸び伸びと自己の知性と専門性を磨くことができる制度自体の在り方が真剣に検討されるべきです。また、その間の経済的支援の在り方についてもしっかりとした議論が必要です。司法修習もさらに幅を広げて、仲裁・調停の経験、行政職の経験、医療現場や科学研究の現実などに接する機会など、現代の法律家に対する多様なニーズに対応する必要があります。

国際商取引学会では高度な専門職の養成に僅かながらでも貢献すべく、模擬仲裁日本大会の主催やインターンシップに関するシンポジウム等を行い、ビジネス界のニーズに対応できる法律学教育や法律家養成にも強い関心を持ってきました。また法律家を含めた高度専門職は、ひろく現代を生きる人々の生活の質の改善を志向すべきものです。将来において、そうした社会貢献を行おうとする真摯な若者達が、その目標に向かって積極的に取り組むことのできる人間的な教育環境の在り方を、私達は真剣に模索しなければなりません。

今回の改正は、そうした若者達の未来を脅かすものであり、その再考を強く求めます。

 

国際商取引学会 歴代会長

椿 弘次、絹巻康史、富澤敏勝、齋藤 彰、高杉 直